神成研究室希望者向けのFAQ
<研究全般に関して>
Q1. 電子工学科には光系の研究室が多くありますが,神成研の特徴は何ですか?
位相が揃って発生する極めて理想的な波としてのレーザーが持つ,あらゆる性能・機能を使い切り,さらには新しい性能・機能を産み出し,光と物質が織りなす相互作用において今までにないブレイクスルーを起こそうというのが,研究室の多くの研究テーマの根底にある目的です。光と物質の相互作用を物質側から研究するアプローチも沢山あります。磁性体のスピン流,グラフェン,半導体量子構造,蛋白質などさまざまです。多くの場合,後者では,レーザーには何の工夫も与えずに光が当たったらどうなるかを研究しています。我々は,光波の持つ,電界振幅,周波数,位相,偏光,これらの時間および空間分布を制御することで,物質の光応答との協調から新しい相互作用を開拓し,新しいパラダイムを開拓したいと考えています。対象とする物質は,気体分子,半導体,蛋白質,細胞,相変化材料,等,これまでも多くのものを使って研究しています。 ただし,その実現のためには,光波の持つ,電界振幅,周波数,位相,偏光,これらの時間および空間分布を制御する技術,いままでにはないレーザー自体の開発が不可欠になります。神成研における,新型レーザー開発,ナノ空間における光技術開発,フェムト秒レーザー技術開発,はすべてそのための開発です。 こういう説明をすれば,他の研究室との差異は明確だと思います。Q2. 神成先生が言う神成研が狙うブレイクスルーとは何ですか?
1つには,分子の振動周波数よりも速いフェムト秒領域における光と電気分極との相互作用によって,ゆっくりとした定常状態的な時間スケールでは起きえない結果を発現させることです。たとえば,数100フェムト秒の時間内に,光子エネルギーが最大50%くらい大きく変わりうる様々なエネルギーの光子が時間的制御されて順次照射されたとき,物質の励起状態のエネルギー緩和過程が制御されて,通常では起こりえない状態に物質が遷移し改質されるような現象です。そういう過程が,ナノメータのサイズで制御され,異なる励起を受けた結晶ドメインが空間的にキャリア伝播を伴って相互作用したらどうなるでしょう。 また,非古典的な光を用いた相互作用も期待できます。光パルス内の光子エネルギーの異なる光子間に量子論的相関が作られていた場合,電気分極を介した物質の励起過程を量子性をもって制御する。通常では簡単に生じる位相緩和を妨げるような励起が可能であれば,正に新しい物質の性質を作り出せるでしょう。 今まで見られなかったものを見るというブレイクスルーもあります。速すぎで世界最高のカメラでもコマ撮り撮影など不可能であった現象を,はじめて見る。そこはもう,セレンディピティーの宝庫でしょう。Q3. 光科学の将来性はどうですか?
下に示すのは光科学のロードマップです。今後,どういう学問技術がこの分野で進展し,どういう波及効果を人類に与えるかの予想図です。光量子科学は日本学術会議も推進する今後の重点研究分野の1つです。世界的にも,各国が競い合って,高強度・超高速レーザー装置の開発とその光科学研究への展開を進めています。我々の研究室は,そこで達成されるような1020 W/cm2の高強度光電場での研究は行いませんが,そういった研究開発に不可欠な新しい要素技術,新現象の発見,そして人材供給を行います。実際,神成研を卒業してヨーロッパの大型レーザー開発に参加しているOBもいます。レーザーは発明されてそろそろ60年近くになりますが,「光の時代」と言われるのは,まさに今現在です。Q4. 研究成果の実用化に関してどうお考えですか?
RGB3色のレーザーを使ったレーザーTVやプロジェクターがあります。レーザーのコヒーレンスをフルに使用したコヒーレント通信もすごい勢いで実用化されつつあります。これらは例外で,身近なところで今までの性能を打ち破る実用化へすぐに研究成果が繋がるのは,現在の多くのサイエンスでは大変難しいです。繊細で高精度,かつ難易度の高い現象をいかに汎用性のある装置にして一般社会に供給するか。そして,価格的に市場が受け入れるか。これは,単にサイセンス,技術の問題だけではないビジネスの課題が多くを占めます。 しかし,いきなり一般消費者向けではなく,まずは自然環境問題,社会システム,真理の追究,未知への挑戦という課題の中で,高度なサイエンスがまずは利用され,そこからのスピンアウトとして一般向けへの安価な波及が起こると思います。この流れを実現するために,難しい物理を操り100%理解し,正確で再現性に優れた新しい現象を操ることのできるハードウェアとソフトウェアの協調を実現することが常にサイエンスの現場には求められています。夢描く応用,波及効果は,サイエンティストは皆胸に秘めています。それが,科学者のロマンであり,研究へのモティべーションそのものです。<研究室での教育に関して>
Q1. 神成研における人材育成で重要視している点は何ですか?
神成研では,以下の5つの力を養成することを人材育成のポイントと考えています。- 過去/現在の状況を分析して必要な課題を要素化する立案力を養う
- 自分の着眼点を他人に理解してもらえるように説明する力を養う
- 課題を実現するための研究方法を具体化する力を養う
- 実行過程において客観的に軌道修正をし,収束させる力を養う
- 成果を他人に認めてもらえるように,発表する力を養う
Q2. 実験系ならではの特徴はありますか?
デジタル信号の世界は,何でもありです。物理の法則とは関係なく何でも許されるので,好きにアルゴリズムを作って組み替えられます。本当はない情報も加えられます。自然科学の世界は,物理の法則,原子・分子の決まった性質によって決まってしまっている境界条件が頑として存在します。その制限の中で,以下に知恵を絞って,技術を駆使して,先人がやれなかったことを実現するかが,実験系研究の難しさでもあり,楽しさでもあります。 また,実験系の研究は多くの場合,1人ではできないです。チームワーク,コミュニケーションが必要です。自らのスキルの研鑽だけではなく他人からの技術提供も重要です。研究に適したものを探して購入するという過程もあります。装置を作るという過程もあります。ここには,機械加工,電気回路,制御,デジタル信号処理,データ解析,シミュレーションモデルといった学部で習った多くの学問を駆使することが求められます。 PCに向かうだけの研究よりも,人間的でかつ研究者・技術者養成に適した毎日が送れます。Q3. 神成研はハードだという巷の噂なのですが・・・・。
それは先生が厳しいのではなく,自然科学が厳しいのです。人類のこれまでの科学の歴史の上に我々はさらに新しく高度なものを産み出そうとしているのですから,先人達の時代よりもさらに厳しい自然科学に挑む必要があります。自己に厳しく,狙った目的を完結しようという強い意志がないと,この自然科学には勝てません。Q4. どうして神成研および神成先生は国際派というレッテルになっているのですか?
私も若干不思議ですが,1つには私が慶應の電気工学科で博士を取得後,イギリスの国立研究所ラザフォード研究所に就職して2年間研究員としてオックスフォードに滞在し,その後,アメリカのシアトルにある研究開発会社で2年間上級研究員として働いたという,欧米の研究所,会社での経験があり,その経験・視点からの教育理念を持っているからかも知れません。大学院の講義も最初から英語で行っています。学生の海外留学にも理解があり,強力な推進派です。これまでにも,スタンフォード大学院,カーネギーメロン大学院に学生が進学しています。 これからは,日本にいてもダメです。光科学で外国に挑戦するのも悪くはないです。Q5. 3年生までの授業では光系のものは非常に少ないのですが,どうやって勉強するのですか?
レーザー,フーリエ光学,量子光学,超高速光学,これらは大学院の講義としてあった方がいいでしょうね。ですから,電子工学科のカリキュラムでは系統的には教えていません。大丈夫です,研究室に入ったら,大学院の先輩が輪講で教えてくれます。ただ,教科書的な基礎はそういう輪講で勉強できますが,自分の研究テーマに則したより高度な学問は,自分で積み重ねるしかありません。光の分野も,毎月数100件の論文が発表され続けています。最低限の勉強で済まそうと思う時点でいい研究はできません。Q6. 実験系の研究には憧れるのですが,成績が悪くやっていけるか心配です。
神成研は,人材再生機能も備えているように思います。歴代の学生の中で,Z戦士がいかに活躍したか。研究はモチベーションです。以下に自分の目標に食らいついていく意欲があるか,努力を惜しまないかであって,そうやって頑張っている人間には,自然と周囲が力を貸してくれます。そしてそのうち,学問も悪くないなと思えるようになります。ただし,周囲とのコミュニケーションは大事です。逆に秀才でも,周囲にむしろ助けを求められない,弱さを見せられない人間はたいていダメです。Q7. 修士進学を考えていないのですがそれでも入れますか?
実験系の場合,スキルの習得というのは不可欠です。実験装置の使い方,実験のコツが身について,自分で研究テーマの何が新しいのかが見えて来たときに,修士課程で研究を継続できないのはもったいないのは事実です。1年で終わりなら,就職しても使わないスキルの習得にも努力しようという気にもなりにくいですね。その点だけです。 誰にでも門戸は開けてあります。Q8. 修士課程で,Double Degreeのような国外留学を考えているのですが,支障はないでしょうか?
自分のキャリアパス設計でその価値を認めているなら,私は100%支援します。Q9. 就職先はどうやって決めるのですか?
確かに光関係の仕事をしている学生は多いです。どの企業でも光技術は重要だからです。私は,相談されれば紹介し親身に対応しますが,基本的に学生の意思を尊重します。 パイロットもいれば,環境庁に上級公務員試験で入り福島で除染に頑張っているOBもいます。Q10. 研究室では英語ですか?
英語にしたいです。日常のメール等は学生諸君も問題ないし,留学生とも問題なく会話しているし,国際会議のプレゼンも上手くなったと思いますが,研究のディスカッションを英語にするのはまだ難しいですね。<研究室での研究方針について>
Q1. 研究テーマはどうやって決めるのですか?
下の図は,1993年に神成研発足以来の研究テーマの変遷です。中々,思いついて1年で完了というテーマはないです。正に,学生諸君とディスカッションを重ね,研究費と相談し,時には回り道して実現し成果を挙げてきたテーマばかりです。つまり,毎年のテーマを決断するのは先生ですが,常にアイデアに関するキャッチボールが学生間,学生と教員間であります。実験系ですので,ものすごい予算がかかる研究は無理ですが,神成研にある設備,技術を駆使して新しいことにトライしようとするきっかけは学生のアイデアに依ることも多いです。 例年,3月末の研究室の合宿で,皆がアイデアを持ち寄って研究テーマを話し合います。また,定期的に持ち回りで行っている論文紹介からも,このアイデアは自分らの実験にも活かせるのではないかという提案が出てきます。国際会議で,こういう発表があったというレポートもアイデアを話し合うきっかけになります。研究の善し悪しは,実は90%は,このアイデアと方法論を練るところで決まります。研究者にとって,一番重要な過程ですですので,研究室では非常に大事にしています。